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夢でみた話3 

これは、私が10年ぐらい前に見た夢です。
それ以上でも、それ以下でもありません。
6まであります。

これは3です。
髪が細く、色が白く、皮膚も薄い。まさしく兄の特徴だ。
幸いなことに、血は出ていないようだった。ということは、兄はここで殺された・・・殺されたのだろう。兄が自分で自分の首を切ってそれを持って鍵の閉まっている妹の部屋に忍び込み、なおかつ首だけ置いて去っていったとは考えにくい・・・わけではないのだろう。
とりあえず、ワンルーム以外の部分・・・トイレとバスルームしかないが・・・を確認する。
頭だけで頭が痛いのに、胴体の方までこの部屋にあったらたまらない。
ついでに自分の指先と爪の間まで検分する。私が兄を殺さない理由もまた、ないのだから。
私の指は綺麗なもんだった。少なくとも血を浴びた手ではない。手が血に染まるとそれを完全に洗いきるのに、マクベス夫人の心境にまで達すると小林聡美が言っていたと三谷幸喜のエッセイに書いてあった。
私は昨日、酔いつぶれてこの部屋に帰ってきたのだ。何を起こしていてもおかしくはない。
玄関の扉の向こうまで確認し終えたところで、胴体がこの部屋にはないということが分かった私は、猛烈に腹が立ってきた。

何だってこんなところで死んでいるのだ。この男は。
愛しい、背が低くて、よくできた妻の瞳子さんの元でではなくて、出来の悪い、一ヶ月の稼ぎの殆どを好きでもない酒に費やしている妹のところで。

携帯をまたひったくって兄の番号にかけてみる。
最悪なことにあのイライラする留守番電話サービスセンターに直結しやがる。
もっとも連絡が取りたい人にもっとも連絡が取りたいタイミングで必ず邪魔をする悪の女。
それが留守番電話サービスセンターの声の女である。
留守番電話サービスセンターの女はあらゆる男が何か抜き差しならない事情で都合が悪いことが起きたときに、当たり前のような顔をして男の味方をする。
5回目の「こちらは、留守番・・・」を聞いたあとで、私は通話終了ボタンを押した。終了ボタンを病的に何度も押すのは私の癖だ。

少し考えて、実家にかけてみた。
何か変なことがあったら、連絡があるだろうけど、今それどころではないのかも知れない。
「あれ、なつちゃん、珍しいどうしたの」
母のおっとりとした声が、実家連絡の失敗を語っていた。母は何も知らないのだ。
「うん、今日真由美ちゃんのパーティーだから」
そうね、とあくまでおっとりと母は返してくる。
「お祝いにシャンパン持っていくけど、お母さんも連名にするって変かな」
どうでしょうねえ。母はもういらつくぐらいの速度で返事をする。母の高校の社会の先生は教えてくれなかったのだろうか? 答えと、スカートの長さは短ければ短いほどいい。
「お母さん、また後ほどお祝いするから別にしておいてちょうだい」
それでね、と母は付け加えた。長くなる話になると困るな、と私はくっちゃんくっちゃんに寝癖でうねった髪を親指と中指でねじりながらうん、と曖昧に返事をした。
「貴之、少しも家に顔を出さないでしょう。今日真由美ちゃんのパーティー、あの子も瞳子さんも呼ばれてるんでしょ。なつちゃんちょっと言っておいてよ」
言うのは構わないんですけど、言えるかどうかは定かではありません・・・
私はフローリングの上に行儀よく置かれた兄の形のよい頭を見ながら、調子よく言っとく言っとく、と安請け合いして電話を切った。
母は変な感じじゃなかった。
ということは、兄の頭部切断と実家とはまるで関係がないということだ。
父親は5年前に死んでいる。関係ないだろう。

私は携帯を開いたままで、電話帳から電話番号を検索する。
検索するほどにしか電話を掛けない相手。呼び出し音の間、私はふと自分が背筋を伸ばしていることに気付いた。未だに緊張する。
兄貴之の奥さん、綺麗で人当たりがよくて、つま先のまあるい靴の手入れがいつも行き届いている瞳子さん。
初めてこの人から挨拶をされたときから、私はこの人が苦手だった。
そして彼女があのかなりやのような声で、
「はじめまして、なつさん」
と言ったとき、人生の中でたった一人、積極的に人を嫌うことを初めて自分に許したのだった。
瞳子さんも、留守番電話サービスセンターだった。
あの二人のことだから、
瞳子さんのことだから、もう家を出ているのかも知れない。
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[2008/03/24 21:01] 企画! | TB(0) | CM(0)

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