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夢でみた話2 

これは、私が10年ぐらい前に見た夢です。
それ以上でも、それ以下でもありません。
6まであります。

これは2です。
パーティ行かなあかんねん。

私は枕元に置いてあるはずの携帯電話に手を伸ばし、探り、それがどこにもないことに心の底から舌打ちをした。
鞄のポケットの中だ。いっそのこと思い出さなきゃよかった。
明け方帰ってきたときにドアの横に文字通り投げ出した鞄をなんとか手元に引きずり寄せられないか、ベッドの上から思い切り手を伸ばした。
無理っぽかったから脚を伸ばした。
いけそうな気がする。
何しろ我が家は洋間の・六畳間の・ワンルームなのだから。
しかもそのワンルームの中にキッチンがあるパターンなのだから。
狭小。
つる! つる! と思いながら足の甲をググッと内側に曲げ込んだとき、第一指の指先が鞄の革の感触に触れた。
明らかに立ち上がり、ベッドから降り、数歩(見栄を張った。一歩でもいいかもしれない)歩いてバッグを取りに行った方が安全な体勢になりながら、壁側を向いていた頭を無理矢理フローリングのほうに向けた。

そのとき、ちょうどベッドの上の私と、床の上のそれの目が合ったのだ。
嘘。目は合わなかった。
向こうは目を閉じていたから。

私は自分が小さく息を呑んだのが分かった。そして自分がそんなに驚いたことに驚いた。久しく、感動して泣くとか、怒りに震えるとか、感情による身体反応とは無縁だったのだ。思わず起きあがり、ベッドの上にあぐらをかいた。

そしてそれを凝視した。

これは、なんだろう。

「電話・・・」
阿呆のように呟いて、私はふらりと立ち上がった。
携帯電話は鞄の底の一番取り出しにくい位置に放り込まれていた。
放り込んだのは私なのだが。

そして何故かもう一度ベッドに戻って、それが正面から見える位置に座った。
そうしなければいけないような気がしたのだ。
そしてそれから目が離せないまま携帯電話の履歴を開いた。

多分、深酒しすぎだ。

携帯の向こうでは、礼儀正しい声で若い女の子が、きびきびとお店の名前を告げていた。
「・・・もしもし?」
相手が訝しそうに言う。
「あ、ごめんなさい。坂口さんお手すきですか? 私遠矢と申します」
こちらが名乗ると、女の子はとたんにくだけた口調になる。なーんだ、なつさん、ちょっと待ってて下さいね。
ほんの少しの「エリーゼのために」の後に、明るくはきはきとした、それでいて笑いを含んだ声が聞こえてきた。
「お電話かわりました、坂口です」
「りょうちゃん」
私は床の上のそれから目を離さないまま、唇だけ動かして声を出した。

あれはなんだろう。
あれに何か意味があるとすれば、それはなんだろう。
それとも私が(とうとう)どうかしてしまったのだろうか、という思いが交互に浮かび上がる。

「ごめんりょうちゃん7時に迎えに来てくれるって言ってたじゃん」
りょうちゃんは殆ど声に出しそうなくらいの勢いの含み笑いをたくわえた相づちを返してきた。電話越しだからだろうか、私の声がいつもより硬質なのに気付いていない、陽気な声だ。りょうちゃんは私の病的なくらいの遅刻癖を熟知しているのだ。
「・・・で、起きたら今だったわけ。だから7時には絶対間に合わないと思うのね。だから7時15分・・・10分くらいのつもりでいてもらえないかな」
りょうちゃんは今度ははっきり吹き出して、
「なつ、潔く7時半にしなよ」
と言った。
「そう仰って頂くとどんなにか楽か・・・」
「7時半に行くからね。ケータイちゃんと持っててよ」

りょうちゃんと私は、共通の友達の真由美ちゃんの、婚約記念パーティーに呼ばれているのだ。今日の・夜の・7時30分に。
りょうちゃんはいつも飲まない口実に車で移動する。
人にはいろいろな事情があるものだ。
私はそれがどんな事情か知らない。知らないけれど大抵それに便乗させてもらっている。終電を気にしながら飲むお酒は、お酒じゃない。私は本気でそう思っている。
ピンヒールのパンプスを引っかけて、笑い転げながら、「なつ、いい加減にしないとほんとに置いてくよ」とりょうちゃんを怒らせて、それにげらげら笑いながらパーキングまで突撃するように走り抜けるお酒じゃないと、私は駄目なのだ。
次の日に残らないお酒は、お酒じゃない。

婚約記念パーティーといっても自宅で行われるものでそんなに格式張っていく必要はない。とはいえ、Tシャツにスエットで行くわけにもいくまい。

準備せなあかんねん。

とはいえ。
私はようやく、フローリングのワンルームの中央に置かれた、球体に近い形をしたものをはっきりと見た。
大きさはボーリングの球ぐらい。
顎の線から首が伸びていて、首と肩の付け根あたりで切られていた。それが床の上に立っている。

晒し首。
そう、人間の頭部だった。
正確に言うと、私の兄の頭部だった。
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[2008/03/24 20:59] 企画! | TB(0) | CM(0)

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