その日乗車した電車は自分が普段利用している時間帯の日豊本線には珍しいロングシートタイプの車両だった。
普段は転換クロスシートの車両であることが多いので、何となく立って過ごすことが多いのだが、昼間の時間帯で人もまばらにしか乗っておらず、長い座席にぽつんぽつんと人が座っているぐらいの感じだったので立つのもなんか変な感じだし座ろうか・・・
と車両を見渡すと、なぜかロングシートまるまる一シート分、全く誰も座っていないシートがあった。
わーいシート独り占め~♪
とは決してならない性分の女(もうすぐ初老)である。
他のシートには、電車が空いているとは言えぽつぽつと2~3人ぐらいは座っている状態である。なのにそこのシートだけ不自然に誰も座っていないのである。
なにかあるなと。
これはなにかあるなと。
私は無駄に脳みそをフル回転させてそのシートに誰も座っていない理由をコンマ一秒ぐらいの間に考えた。
仮説1:なんか分からないが臭いのではないか。
仮説2:さっきまで誰かが乗っていてそのシートに何か(ジュースとか)こぼした。他の乗客はそれを知っているので席が空いているのにそこへは移動しようとしない。
仮説3:さっきまでそこに座っていた人のガラが悪かった。だから周りに人が寄りつかなかった。(その人は今私が乗った駅で降りた)
仮説1・2の場合はシート近くまで行ったら判別できるであろう。仮説3の場合だったら別にもうなんの問題もない。
というわけで私はそのシートの近くまで移動し、シートを疑り深く観察した。
特に不審な点はない。
では。
というわけで私はそのシートに腰を下ろした。長々書いているが、この時点でまだ電車は駅のホームでドアを開いている状態である。
人はとっさに見たことを観察して判断して行動する生き物である。それをひたすら繰り返している生き物である。
さて、シートに腰掛けた私の対面に、私の母親ほどの年齢の女性が座っている。
その女性が不思議な動作をしている。
胸の前に右手を小さくあげて、ごく控えめに手首を振っている・・・私に向かって・・・?
その動作は、どう見ても、
・・・オイデオイデ・・・?
しまったここやっぱりワケあり物件か!!!
私はびょんっと立ち上がり、導かれるまま今座っているシートと反対側のシートの、その女性の隣にびゅっと座った。
他の誰にも見られていないはずである。誰も気づかないぐらいの移動速度だったはずである。
「あそこの席ねえ・・・」
女性が、声を潜めて私に話しかけてくる。私はもちろん耳をそばだてた。どんな悪い秘密が隠されているというのか。
そのとき、電車のドアが閉まり、ゆっくりと進行方向に動き始める。
「あそこだけ、すごく陽が当たるの」
影を作っていた駅のホームを抜けた今、それは私の目にも明らかだった。
錦江湾の海沿いを走る日豊本線の、その車両の、不思議なことにそこのシートだけ、
めっちゃ陽が当たってた。
二分後、電車は次の駅に到着した。
そこで若い女性が乗ってきた。若くてちょっと尖った感じの可愛い女性。ちょっと周りを見渡しええっと・・・という感じで逡巡したが、やはりちょっとおずおずと誰も座っていないロングシートに座った。
その若い女性は周りの誰からも干渉されたくないわ!というオーラを放っているように感じたのでちょっと迷ったのだが、ちょっと隣を伺うと、同じようにこちらを伺っている隣の女性とぱちんと目が合ったので、
私たちはちょっと笑って、ぴよぴよぴよと対面の席に座る彼女に向かってそろって小さく手招きした。
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